【道場紀行】江都無外会

東京都内で活動されている居合道の会派、中川無外眞傳無外流居合兵道「江都無外会」さんを取材させていただきました。

代表を務められている𠮷野蔵一先生(武号:芥龍、範士八段 免許皆伝)にお話を伺い、歴史ある流派の技を現代にどう伝えているのか、そして道場が担う新たな役割についてお伺いしました。

板張りの道場で刀を構えて稽古する人たち

正統なる直系の技を伝える「中川無外眞傳無外流居合兵道」

大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

本日はよろしくお願いいたします。
まずは、𠮷野先生が指導されている流派について教えてください。

よろしくお願いいたします。
私たちが研究・稽古しているのは「中川無外眞傳無外流居合兵道」という居合術の武道です。
無外流は、1693年(元禄6年)に流祖である辻月旦が開流した歴史ある武道ですが、時代の変遷とともに数十、あるいはそれ以上の会派に分派してきました。
その中で私たちは、流祖から直系で伝わる『古流 無外流』の道統を守り、その技の剣理(けんり)、術理(じゅつり)、理合(りあい)を伝えることを信条としています。
稽古では、独りで行う『形』、木剣を用いて打ち合うことで立ち合いを学ぶ『剣術(組太刀)』、実際に斬る刃筋を習得する『試斬』の3分野に分けて進めています。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生
大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

非常に長い正式名称ですが、ここにはどのような意味が込められているのでしょうか。

私たちの会が行なっている形は全て、流派中興の祖とされる第11代宗家、故 中川申一(士龍)先生が代々伝承されてきた技を再編整理されたものです。
そのことを明確にするため、去る2025年5月に他界された第16代宗家の故 小西御佐一(龍翁)先生がその生前、この名称を定められました。
「中川」を冠した名称こそは、無外流開流以来の術技を継承していることを裏打ちするものなのです。
私はこの小西先生に直門として師事し、2018年の六段允可に伴い道場開設を許される「免の巻」「百足伝」という2巻の巻物を受領した後、東京で今の活動を行ってきています。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生
袴姿で巻藁を斬る居合の演武
大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

𠮷野先生の武号「芥龍(かいりゅう)」にも、深い意味があるそうですね。

はい。当流では錬士六段の允可時に師から武号を許される習わしで、第11代中川宗家の「士龍」から続く道統の象徴として「龍」の字を入れるのが慣例です。
「芥」は「ちりあくた」の「あくた」であり、「先達の先生がた(龍)の末席を汚させて頂く龍」という意味です。
驕りや不遜を自戒しつつ、「芥(かい)」の音が「広く」などと読む「介」に通じることから、他流・他会派を排斥することなく、広くリスペクトして武道全般の正しい振興に少しでも役立ちたいという思いを小西宗家に伝え、お許しいただいた経緯があります。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生

現代科学とツールで紐解く「わざまえ(業前)」

大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

古流の技を現代の方に教える上で、工夫されていることはありますか?

昔のお侍のように365日道場に通って、『素振り3年』などのように〝習うより馴れよ〟で身体に覚こませるというやり方は現代人には難しいですよね。
そこで私は、できるだけ現代の人の科学的知識や常識によって理解できるような言葉で技を伝えるように努めています
例えば『速度』と『加速度』、『サイクロイド曲線』などですね。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生
大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

物理や数学の用語ですね!

そうです。真剣で藁束を斬る試斬(試し斬り)でなかなか斬れないという時、多くは「速度」「加速度」を生かす力の使い方(刀の振り方)ができていないことに原因があります。
物体の速度が最大になる時、加速度はゼロです。多くの方は斬り込む瞬間を最速にするように力を込めますが、これでは斬り込んだ後の刀は失速して斬れません。藁を「斬りぬく」には、斬り込んでからも刀が加速し続ける必要があるのです。
そして、その加速を最も効率的に生み、運動エネルギーに替えられる刀の軌道が「サイクロイド曲線」というわけです。
こうしたことを、時にホワイトボードなども使って図示しながら、まず頭で理解し、それを体に反映させていく、というプロセスを大切にしています。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生
紋付袴姿で木刀を持ち説明する男性
大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

動画撮影も積極的に取り入れていると伺いました。

はい。世阿弥の言葉に「離見(りけん)」という、自分を客観視する考え方がありますが、これは相当な鍛錬が必要です。
現代ではスマホという文明の利器がありますから、稽古の最後の30分はお互いに動画を撮り合い、「ここはこうではないか」と剣談(けんだん)を交わし、みんなでディスカッションしながら研究を深めています。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生

30本の形と「更参三十年」の教え

大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

無外流は他の古流に比べて、形の数が絞られているそうですね。

おっしゃる通りです。当流の形は計30本です。
「表の形(独り稽古の居合)」が座技10本・立技10本の計20本。「居合之形(大刀による組太刀)」が5本、「脇差之形(脇差による組太刀)」が5本です。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生
大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

30本となると、比較的早く覚えられそうにも思えますが……。

そこが危うさを生む原因でもあるんです。
30本の形がきれいに抜けるようになると、すべてを極めたような気になってしまう。しかし、無外流は「形あって型なし」です。
中川宗家の遺された書に「更参三十年(さらにさんぜよさんじゅうねん)」という言葉があります。
30年稽古しても、さらに30年稽古しなさいと。
30本の形の動きは、あくまで技の〝基本メニュー〟です。
その動きを少しでも洗練されたものへ錬磨し、時に組み合わせ、融合させて敵の動きに応じられるようになるための研究は一生続くものなのです。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生

「薄くて深い」サードスペースとしての道場

大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

最後に、これから居合を始めようと考えている方へメッセージをお願いします。

私は40歳になってから居合を始めました。職場でも家庭でもない、心にゆとりを持てる「第3の居場所(サードスペース)」を作りたかったからです。
当会が目指しているのは、濃すぎる人間関係ではなく「薄くて深い」関係です。
稽古後に有志で〝反省会〟と称して懇親会を開くこともありますが、武道のマニアックな話ばかりではなく、日常のたわいない話や仕事の愚痴、婚活の話などをしながら、なんとなくその人を深く理解し合える。そんな空間でありたいと思っています。
年齢や性別を問わず、ご自身のペースで焦らずたゆまず稽古ができる会ですので、ぜひ一度体験にいらしてください。

𠮷野蔵一 先生
𠮷野蔵一 先生
居酒屋のテーブルを囲んで乾杯する人たち
Screenshot

編集後記|武道が「整える時間」になる場所

大谷(武道・道場ナビ管理人)
大谷(武道・道場ナビ管理人)

物理学を用いた論理的な指導と、古流の厳格な教えが融合した𠮷野先生の道場。
先生の武号「芥龍」に込められた謙虚な姿勢の通り、「薄くて深い」人間関係が築ける第3の居場所として、現代を生きる私たちにとって非常に魅力的な空間だと感じました。

※お問い合わせの際は「武道道場ナビを見た」とお伝え頂くとスムーズです。

この記事を書いた人

武道・道場ナビ管理人 大谷悟

大谷悟(おおたにさとる)

  • 武道・道場ナビの管理人
  • 道場専門のコンサルタント、ウェブ解析士
  • 道場コンサルタントのサービスページはこちら
  • 道場専門のHP制作サービス(WEB道場)運営
  • 自身も武道有段者として現在も道場で指導を行う
  • 前職は財務省で広報や政府開発援助に携わる

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