剣道をはじめとする武道では級や段の取得ができます。剣道では試合と同じように昇段審査を目標の一つとして取り組んでいる人も多く、級や段は実力の目安となるものです。しかし、級や段は試合のように勝敗ではっきりわかるものではありません。
本記事では剣道未経験者や初心者にも理解できるように、昇段審査の仕組みや審査内容、難易度について詳しく解説しています。
昇段審査は試合とは異なり、審査基準を理解していなければ合格できません。
記事内では昇段審査合格のポイントについても解説しているので、記事を読めばどのような稽古をすれば良いのかもわかります。
ぜひ、記事を最後まで読み、さらに剣道の昇段審査に興味を持ってください。
この記事を書いた人
・剣道歴39年
・剣道 錬士七段
一般企業の会社員をしながら、地元中学校の剣道部外部指導員・少年団の指導者として日々活動中。自身の稽古にも継続して取り組んでいる。
剣道の疑問を小中学生や初心者の人にもわかりやすく伝えようとメルマガ、note、ブログにて発信。
2021年に著書「28回も不合格でしたが、なにか?」を執筆し、Amazonにて発売中。
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剣道の段位とは
剣道の段位とは、全日本剣道連盟や国際剣道連盟などの定めている制度です。明治維新後に、それまでにあった様々な流派の目録、免許等の伝位を統一する目的で定められました。現在の段級位制は2000年(平成12年)4月1日に施行された「称号・段位審査規則、同細則」に基づいたものです。
剣道の歴史については、「剣道の歴史をどこよりも簡単に解説!日本文化の紹介にも役立つ知識を」の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
ここでは、剣道の「称号・段位審査規則、同細則」によって定められている段位の正式名称や受審資格について紹介します。
剣道段位には正式名称があった
剣道の段位を履歴書などに書く人もいますが、履歴書に書く際には正式名称で書かなければなりません。じつは、剣道の段位には正式名称があり、単純に「剣道◯段」と書くのは間違いです。
国内で剣道の昇段審査を受けた場合、段位の正式名称は「全日本剣道連盟○段」となります。海外で地方審査を受審した場合は異なるため、注意が必要です。
また、履歴書には段位の取得年月日を記載しなければなりませんが、その度に証書を探して確認するのは手間がかかります。また、証書を紛失してしまった場合にも困るかもしれません。そんなときにはインターネット上で検索してください。全日本剣道連盟のホームページで氏名(カタナカ)と生年月日を入力するだけで、全剣連番号と取得年月日の照合が可能です。
ただし、20年ほど前までは全剣連番号がなかったため、全剣連番号ができる前に段位を取得した人は検索できません。
昇段審査を受ける為の資格
剣道の昇段審査は書道や将棋の段位のように、実力があればすぐに昇段できるわけではありません。昇段審査を受けるには、年齢制限と修行年限が下記のように決められているからです。
段位 | 受審資格 |
---|---|
初段 | 1級を所有し、満13歳以上の者。 |
二段 | 初段取得後1年以上修行した者。 |
三段 | 二段取得後2年以上修行した者。 |
四段 | 三段取得後3年以上修行した者。 |
五段 | 四段取得後4年以上修行した者。 |
六段 | 五段取得後5年以上修行した者。 |
七段 | 六段取得後6年以上修行した者。 |
八段 | 七段取得後10年以上修行し、かつ46歳以上 |
最初に初段を受けるためには、満13歳以上であり、なおかつ初段に合格してからは「段位×1年」の修業年限が設けられています。したがって、初段に合格してから順調に昇段しても七段までは21年間の修行が必要です。
たとえば、お子さんと一緒に30歳から剣道を始めて、すぐに初段を取得したとすると、順調に合格すれば51歳で七段を受審できます。51歳といえば若くない印象を受けるかもしれません。しかし、剣道をしている人からすれば、まだまだ若輩者の年代です。
じつは、ごく稀に修業年限が短縮されることがあります。
特段の事由があれば修行年限が短縮される
称号・段位審査規則の第17条には、修業年限が短縮可能な条件について、下記のように記載されています。
次の年号のいずれかに該当し、地方代表の長が特段の事由があると認めて許可した者は、前項の規定にかかわらず、該当段位を受審することができる。
1.二段から五段までの受審を希望し、次の年齢に達した者
- 二段:35歳
- 三段:40歳
- 四段:45歳
- 五段:50歳
2.初段から五段までの受審を希望し、次の修行年限を経て、特に優秀と認められる者
- 初段:一級受有者
- 二段:初段受有後3ヶ月
- 三段:二段受有後1年
- 四段:三段受有後2年
- 五段:四段受有後3年
称号・段級位審査規則 第17条
ただし、上記は特殊なケースであり、一般の剣道愛好家には適用されません。
剣道連盟に確認したところ、たとえば年齢に関しては、単純に年齢だけでなく特別な理由が必要とのことです。したがって、剣道を習い始めたのが遅い場合や、受審機会があったにもかかわらず受審しなかった場合は該当しません。
ただし、特殊な事情がある場合には適用されるため、該当すると思われる人は所属の剣道連盟に確認することをおすすめします。
昇段審査の内容
剣道の昇段審査には、下記3つの審査があります。
- 実技審査
- 学科審査
- 日本剣道形
ただし、初段から五段までの審査は各都道府県の剣道連盟が主催するものなので、地域によって審査方法や審査基準が異なる場合があります。また、全日本剣道連盟の称号・段位審査規則の第15条によると、段位基準は下記のような曖昧な表現となっており、審査方法や審査基準は一切書かれていません。
称号・段級位審査規則 第15条
- 初段:剣道の基本を修習し、技倆良なる者
- 二段:剣道の基本を修得し、技倆良好なる者
- 三段:剣道の基本を修錬し、技倆優なる者
- 四段:剣道の基本と応用を修熟し、技倆優良なる者
- 五段:剣道の基本と応用に錬熟し、技倆秀なる者
- 六段:剣道の精義に錬達し、技倆優秀なる者
- 七段:剣道の精義に熟達し、技倆秀逸なる者
- 八段:剣道の奥義に通暁、成熟し、技倆円熟なる者
ここでは、昇段審査で実施される3つの審査について詳しく解説します。
最初にして最大の敵は実技審査
剣道の実技審査で必ず実施されるのは、立ち合いです。違う相手と2回行い、実力が段位に見合うかどうかを審査員が見極めます。
また、立ち合い以外にも「切り返し」や「応じ技などの課題」がある地域もあります。切り返しは剣道の要素がすべて入っているといわれる稽古法であり、五段までの審査で課されている地域もあるほどです。
立ち合い時間も地域によって異なりますが、基本的に段位が上がるほど時間も伸びる傾向です。初段、二段は30秒程度の立ち合いで、五段までの審査では明確に立ち合い時間を決めていない地域も多くなっています。
六段以上の審査に関しては、立ち合い人がストップウォッチを持って計測しているため、立会時間は明確です。具体的な立ち合い時間は、六段で1分、七段で1分30秒、八段で2分となっています。
三段以下の立ち合いで求められる技術は、基本の忠実さです。一方、四段以上の立ち合いでは、理に適った攻め合いが求められます。
剣道の学科審査は2つのパターン
学科審査は次の2つのパターンがあります。
- 事前にレポートを書いて提出する
- 当日の審査会場で筆記試験が行われる
事前にレポートを書いて提出するパターンの審査は、記憶する必要もないため簡単です。コロナ禍ではレポート形式の学科審査を取り入れる地域も増えました。
一方、審査会場の床に並んで座り筆記試験を受けるケースでは、事前に試験問題を発表されることが多く、問題に対する回答例を暗記する必要があります。ただし、合格基準点は低い傾向であり、50%の正答率があれば問題なく合格できるでしょう。
日本剣道形は段位によって本数が違う
日本剣道形の審査は全日本剣道連盟で段位毎の本数が下記のように決められています。
- 初段:太刀の形1~3本目
- 二段:太刀の形1~5本目
- 三段:太刀の形1~7本目
- 四段以上:太刀の形1~7本目・小太刀の形1~3本目
本数だけではなく、段位に見合った形が打てなければなりません。形審査も実技審査と同じく理合いの理解が必要となります。ただ手順を覚えるだけでなく、一つひとつの動作の意味を知ることが重要です。
形審査に関しては、国内の昇段審査より海外の方が厳しいようです。海外の剣道はスポーツよりも武道として捉えている人が多いからかもしれません。文化を継承する意味合いにおいても、形を学ぶことは重要です。昇段審査のためだけではなく、剣道の深みを増すためにも日本剣道形に取り組むことをおすすめします。
剣道段位の難易度
剣道の昇段審査は難しい印象があるかもしれませんが、実際の難易度はどの程度なのでしょうか。昇段審査の合格率はおおむね下記のとおりです。
- 初段:80〜100%
- 二段:60〜90%
- 三段:40〜70%
- 四段:20〜60%
- 五段:20〜50%
- 六段:20~35%
- 七段:10〜25%
- 八段:0.5~1%
合格率が下がるのは四段以上の昇段審査で、三段と四段の間には壁があり、難易度も上がります。また、六段以上の全国審査になると、難易度はさらに高くなる印象です。
ただし、初段から五段までの地方審査は地域によって大きく異なるため、合格率もある程度の目安として考えてください。六段以上の合格率は全日本剣道連盟の公式サイトに審査会毎に公開されています。
六段以上の昇段審査においては、合格率の数字以上に難易度が高い印象です。実際、1回目、2回目の挑戦で合格できる人と、10回前後挑戦し続ける人に二分されます。中には10年間以上受け続けているにもかかわらず、合格できない人もいるため、さらに難易度が高い印象を受けるでしょう。
剣道は何段からがすごいのかという疑問については、下記の記事を参考にしてください。
剣道の昇段審査で合格する3つのポイント
剣道の昇段審査の基準は曖昧な印象を持たれているかもしれませんが、すべての段位に共通するポイントがあります。
昇段審査のポイントが的確に記載されているサイトが、全日本剣道連盟の六段以上の審査ページです。審査ページでは、審査が終了してから1~2ヶ月後に審査寸評が公開されます。これは全日本剣道連盟が発行している「剣窓」に掲載されているものであり、審査を受ける人の指標となるものです。
審査寸評に多く記載されている内容は下記の3点であり、日頃の稽古で意識すると合格に近づくことは間違いありません。
- 正しい着装
- 正しい礼法と所作、構え
- 理合いにかなった打突
それぞれ詳しく解説します。
昇段審査では着装を軽視してはならない
意外とできていないのが『着装』です。
想像してみてください。これから戦いに向かう人の鎧が取れそうになっていたらどうでしょうか。明らかに弱そうに見えますし、もし戦いの途中で鎧が取れたら致命傷になりかねません。
剣道では「着装を見れば品が分かる」と言われるほど、着装は重要です。面紐や胴紐は縦結びにならないように注意し、結んだ後の長さは揃えます。あなたの周りの三段以下の人と六段以上の人の着装を見比べてみてください。着装の重要さがすぐに理解できるでしょう。
また、「胴は黒色でなければならない」「剣道着・袴は綿素材を使用すべし」などのアドバイスを聞くこともあるかもしれませんが、間違いです。もし、赤胴を使用して不合格になったとしても、道具自体の問題ではありません。
審査に臨む心構えや技量こそが重要であり、あなたが実力を発揮できる着装であれば良いでしょう。ただし、不安を感じるようであれば、その不安を拭い去る道具を使うことをおすすめします。
礼法、所作、構えが正しくできているか
昇段審査は立ち合いの前から始まっていると聞くことがありますが、実際はすべての審査員が立ち合い前の受審者を見ているわけではありません。恐らく立ち合い前の状態を見ている余裕はないと思われます。
ただし、礼法、所作が正しくできているかどうかは、その他のところにも必ず現れるでしょう。剣道では「礼法・所作を見れば格が分かる」と言われることもあります。
また、剣道における構えは「一国の城」と表現されることもあるように、構えが崩れないことも重要です。「構えを見れば品格が分かる」と言われます。正しい構えでなければ正しい打突動作はできません。
剣道では、礼法や所作、構えを見るだけで、ある程度の実力がわかります。日頃の稽古で意識して取り組んでみてください。
理合にかなった打突であるか
昇段審査の核となる部分が打突動作です。剣道では、無理打ち、無駄打ちをなくすことが重要であり、日々の稽古では理合にかなった打突を意識して取り組んでみてください。
「初太刀を見れば覚悟が分かる」と言われるように、蹲踞から立ち上がってすぐにただ何となく間合いを詰めて打突するような立ち合いで、四段以上の合格は難しいでしょう。
まずは自らが攻め、次に示す打突の好機を捉えることが重要です。
- 敵の起こり頭
- 受け止めたところ
- 技の尽きたところ
- 退くところ
- 居ついたところ
自分勝手な打突は無駄打ちを量産するだけなので、上記の機会を捉え、無駄のない打突を心がけましょう。
剣道の昇段審査を目標に日々の稽古に取り組もう(まとめ)
本記事では剣道の昇段審査について、審査内容や受審条件、審査の難易度、審査合格のポイントなどについて詳しく解説しました。
昇段審査は受審条件があるため、段位が上がるにつれ修行期間も長くなります。その分、上辺だけの競技剣道ではなく、武道としての剣道として重みが増すというものです。
そのためには、下記の3点を意識して日頃の稽古に取り組む必要があります。
- 正しい着装
- 正しい礼法と所作、構え
- 理合いにかなった打突
昇段審査は剣道愛好家の目標の1つです。審査の内容や基準を熟知し、日頃の稽古に取り組んでください。審査に向けて稽古回数を増やしたい方には、道場検索がおすすめです。下記のリンクより、剣道道場を検索してみてください。